「最近、抱っこすると鳴くようになった」「背中を丸めてよたよた歩いている」
そんな愛犬の変化に、不安や戸惑いを感じている飼い主様も多いのではないでしょうか。
老犬になってからのヘルニアは、「年のせいかな」と見過ごされやすいのですが、実は早めに気づいて適切に対処することで、再び歩けるようになる可能性が十分にあります。
この記事では、老犬に多いヘルニアの種類と後ろ足に出る症状の見分け方から、治療の選択肢、自宅でのケア方法まで、わかりやすくご紹介します。愛犬のペースに寄り添いながら、一緒に読んでいただけたら嬉しいです。
老犬に多いヘルニアの種類

犬のヘルニアにはいくつかの種類がありますが、後ろ足の麻痺や痛みを引き起こす代表的なものが「椎間板ヘルニア」です。椎間板とは、背骨と背骨の間でクッションの役割を果たす組織で、これが変性・突出して脊髄を圧迫することで神経症状が現れます。
椎間板ヘルニアには、大きく分けて「ハンセンⅠ型」と「ハンセンⅡ型」の2タイプがあります。
老犬に多く見られるのはハンセンⅡ型です。椎間板の外側を包む繊維輪が数カ月から数年かけて徐々に分厚くなり、脊髄をゆっくりと圧迫するタイプで、加齢による変性が主な原因です。
ラブラドール・レトリーバーのような、遺伝的に軟骨の変性リスクを持たない「非軟骨異栄養性犬種」でも多く見られ、症状が慢性的に進行するため老化との区別が難しい点が特徴です。
一方のハンセンⅠ型は、椎間板の中の髄核が突然飛び出すタイプです。遺伝的に軟骨の変性が起きやすい「軟骨異栄養性犬種」に多く、比較的若齢から発症しますが、老犬でも急激な負荷がかかったときに起こることがあります(※1)。
老犬の椎間板ヘルニアが見逃されやすい理由
老犬のヘルニアで注意が必要なのは、初期症状が「年のせい」と片づけられやすいことです。
「抱き上げたときに嫌がる」「背中を丸めて歩いている」「階段の上り下りをためらうようになった」といったサインは、関節炎や単純な疲れとも重なります。
しかし、これらは椎間板ヘルニアの初期サインである可能性もあります(※1)。

愛犬の小さな変化を「おかしいな」と感じたら、早めに動物病院へ相談することをおすすめしますワン🐾
後ろ足に出る症状と受診の目安

椎間板ヘルニアの症状は、脊髄への圧迫の程度によってグレード1〜5に分類されます。グレードが上がるほど緊急度も高まります(※2)。
| グレード | 主な症状のサイン | 受診の目安 |
|---|---|---|
| グレード1 | 抱っこで鳴く、背中を丸める、触られるのを嫌がる | 当日中に受診 |
| グレード2 | 足元がおぼつかない、ふらつきながら歩く | 当日中に受診 |
| グレード3 | 後ろ足が麻痺して立てない、足を引きずる | 今すぐ受診 |
| グレード4 | 自力で排尿できない、完全な麻痺 | 今すぐ受診(救急) |
| グレード5 | 深部痛覚の消失 | 超緊急(48時間以内) |
「急に後ろ足に力が入らなくなった」「足を引きずっている」という様子が見られたら、一刻も早い受診が必要です。
「様子を見ようかな」と思う気持ちはわかりますが、この場合は待たずに動いていただくことが、愛犬の未来につながります(※3)。
「深部痛覚の消失」とはどういう状態か
グレード5の「深部痛覚の消失」は、脊髄が非常に深刻なダメージを受けているサインです。
単に「足が動かない」というだけでなく、「強い刺激を与えても、本人が痛みを感じている反応が全くない」状態を指します。
深部痛覚の有無は、手術によって回復が見込めるかどうかを判断するうえで極めて重要な基準です。深部痛覚を消失してから48時間以内に処置を行わないと、歩行能力を取り戻す確率が著しく低下するとされており、緊急度の判断に欠かせない情報です。
ここで注意が必要なのは、「足が動いた(引っ込めた)」と「痛みを感じた」は別物だという点です。刺激に対して足をピクッと引き込む動作は「屈曲反射」と呼ばれる脊髄の自動的な反応であり、脳が痛みを感じていなくても起こります。深部痛覚があるかどうかは、「キャン」と鳴く、顔を向ける、唸るといった「脳が反応している」サインで判断されます(※3)。
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治療・手術・薬・安静について

治療の選択肢は、症状のグレードや犬ちゃんの全身状態、飼い主様のお考えをもとに、獣医師と一緒に検討していきます。「どれが正解か」というより、その子にとって何が一番負担が少ないかを丁寧に考えることが大切です(※4)。
内科療法(保存療法)
グレード1〜2の軽症の場合や、高齢で手術のリスクが高い場合に選ばれます。2〜4週間のケージレスト(絶対安静)と消炎鎮痛剤による投薬治療が中心です(※4)。
💡 ケージレストとは
ケージの中で安静に過ごさせることで、椎間板への負担を最小限に抑える方法です。食事も排泄も、なるべくケージの外に出さずに済むよう工夫することが理想です。たとえば、ケージ内に食器を置いて食べさせる、排泄はケージのすぐそばにトイレを設置してできるだけ歩く距離を短くするといった配慮が求められます。
「少しよくなったから」と早めに動き回らせてしまうと回復が遅れることがあるため、獣医師から許可が出るまでは安静を続けることが大切です。
痛みが落ち着いた後は、少しずつ日常生活に戻っていけるよう、環境の整備も並行して進めます(※4)。
外科手術
脊椎の一部を削り、脊髄を圧迫している組織を取り除く手術です。深部痛覚が残っている段階で手術を行えば、9割以上が再び歩行可能になるという報告もあります。早期の手術介入が回復の大きな鍵になります(※3)。
10歳を過ぎると、麻酔のリスクや術後のリハビリへの負担を考慮して、手術を選ばない飼い主様も増える傾向にあります。

「手術をする・しない」のどちらが正しいということはないワン🐾
愛犬の状態と生活の質をかんがえて、後悔のない選択ができるよう獣医師と話し合いを重ねてくださいワン(※5)🐾
再生医療という選択肢
近年では、幹細胞を使った再生医療も選択肢のひとつとして登場しています。幹細胞が持つ組織修復力を利用して、失われた機能や組織の回復を目指す治療法です。
新しい治療法のため、すべての病院で受けられるわけではありませんが、「手術が難しい状態だけれど、何かできることはないか」と考えている飼い主様にとって、知っておく価値のある選択肢です(※6)。
自宅介護とマッサージの注意点
自宅でのケアは、「これ以上悪化させない環境を整えること」と「回復期に血行を促すやさしいケアをすること」の2つが柱になります。
住環境の整備は急性期・回復期を問わず早めに取り組んでおきたい備えです。
マッサージについては時期によって対応が全く異なるため、今が急性期なのか回復期なのかを、まず獣医師に確認してください(※7)。
住環境の整え方
フローリングは、後ろ足に力が入りにくい犬ちゃんにとって非常に滑りやすく危険です。
滑り止めマットを敷く、ソファや階段の段差にはスロープを設置するなど、犬ちゃんが自力でジャンプしなくて済む環境を整えることが基本です。
後ろ足立ちをさせない工夫も大切で、日常の小さな場面ひとつひとつに気を配ってあげましょう(※7)。
📖老犬に優しい環境づくりについては、こちらの記事で詳しく解説しています🏠🐕
マッサージをするときの注意点
犬ちゃんの体格や症状によって、マッサージのやり方は変わってくるものです。必ず獣医師にやり方を確認してから行うようにしましょう。
行うときのポイントは、手のひらをしっかり温めてから、ごく軽い力でそっと体をさすることです。体が温まってきたら、足の曲げ伸ばしをゆっくりと行うことが、筋肉へのやさしいリハビリになります(※8)。
ヘルニアの老犬は散歩してよい*獣医の許可が出たら

急性期(発症直後や痛みが強い時期)の散歩は控えてください。無理に歩かせると脊髄へのダメージが広がる恐れがあるため、排泄時以外はケージ内で安静にさせることが原則です(※7)。
回復期に入り、獣医師から許可が出たら、少しずつ外出を再開していきます。焦らず、愛犬のその日の様子を見ながら、無理のない範囲で進めましょう。
歩行補助ハーネスを活用する
後ろ足を支える歩行補助ハーネスを使うことで、犬ちゃんの自力歩行を助けながら、筋力の低下を防ぐことができます。前足用・後ろ足用・全身をサポートするタイプなど種類があるため、愛犬の状態に合ったものを選ぶことが大切です(※9・※10)。
📖 歩行補助ハーネスの選び方はこちらの記事でご紹介しています🐕🦺💛
カート散歩・抱っこ散歩も立派な散歩
万が一歩けなくなっても、外の空気を感じることは犬ちゃんの脳への大切な刺激になります。外の匂い、風、通り過ぎる人の気配。こうした感覚が認知症の予防や気分転換につながり、QOL(生活の質)の向上にも関係するとされています。
「歩けないから散歩は無理」と思わず、カートや抱っこで外に連れ出してあげることも、りっぱな散歩です。歩かせることではなく、一緒に外に出ること自体が、愛犬にとってかけがえのない時間になります(※9)。
📖 散歩の工夫についてはこちらの記事をご覧ください🐕🐾
まとめ
老犬のヘルニアは、早期に気づいて適切に対処することで、十分に回復が見込める病気です。
「年のせいか歩くのが遅くなった」「最近抱っこを嫌がる」
そんな小さな変化の裏に、ヘルニアによる痛みが隠れていることがあります。
「老化だから仕方ない」と諦める前に、まずは動物病院に相談してみてください。愛犬の歩き方が気になったら、その様子をスマートフォンで動画に撮って持参すると、診察がスムーズになります。
どんな状態であっても、飼い主様が寄り添い続けることが、犬ちゃんにとっての何よりの力になります。少しでも気になることがあれば、獣医師や信頼できる人に相談して、愛犬ちゃんが快適に過ごせるようにしてあげましょう。
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【参考文献】
- ※1 【獣医師監修】愛犬の椎間板ヘルニア – 見逃しやすい初期サイン10選と対処法|とがさき動物病院
- ※2 Smile FREE MAGAZINE NO.027 2021年春号|日本動物医療センター
- ※3 椎間板ヘルニア(Intervertebral Disc Disease)|相川動物医療センター
- ※4 実践・椎間板ヘルニアの対処法|中山 正成(中山獣医科病院院長、獣医師、医学博士)
- ※5 【シニア犬の悩み】高齢になって椎間板ヘルニアになったら。手術する?しない?|セカンドセレクト動物病院
- ※6 世界初の犬を対象とした動物用再生医療等製品「ステムキュア®」について|住友ファーマアニマルヘルス株式会社
- ※7 【要介護】椎間板ヘルニアになった高齢犬。自宅でケアしていくための4つのポイント|セカンドセレクト動物病院
- ※8 【獣医師監修】マッサージの仕方|苅谷動物病院グループ
- ※9 犬の車椅子:QOLの向上を目指して ~製作時の個体別調査および使用症例報告~|山本和弘・井上みちる・井上香菜(帝京科学大学生命環境科学部アニマルサイエンス学科)
- ※10 介護用ハーネスとは? 愛犬に合った介護用ハーネスの選び方を解説|AMILIE




